東京高等裁判所 昭和53年(う)1140号 判決
被告人 荒木英彦
〔抄 録〕
控訴趣意第二点、第一は、訴訟手続の法令違反を主張し、原審において、原判示第一の窃盗教唆の事実中、一回目の教唆の時期および二回目の教唆の時期に関し、当初の訴因記載の時期につきそれぞれ被告人のアリバイが立証されるや、検察官は、右各アリバイを回避するために、被告人の防禦権を侵害する形で、不特定又は長期にわたる期間を教唆の時期として、訴因の変更を求め、原裁判所が、その請求を許可し、変更された訴因に従って有罪を認定したのは、刑事訴訟法三一二条、日本国憲法三一条、三二条、三六条に違反するというのである。
よって、記録を調査して検討すると、原判示第一の窃盗の一回目及び二回目の教唆の時期に関し、当初の訴因である日時につき被告人のアリバイが立証された後、検察官が教唆の時期をアリバイのない時期に変更する趣旨の訴因変更を申し立て、原裁判所がこれを許可したことは、所論のとおりである。ところで、本件捜査の過程で、被告人が、完全に犯行を否認しながら、アリバイの主張をせず、他方、寺谷の供述は、同人が被告人から教唆された時期につきかなりあいまいであった状況の下で、検察官が、当初、寺谷の供述に従って教唆の時期を主張し、その後、被告人のアリバイが立証されるや、そのアリバイのない時期を教唆の時期として訴因を変更したことは、無理からぬ点があったものと考えられる。また、当初の訴因で主張された教唆の時期と比較して、変更後の訴因における教唆の時期が長い期間にわたっていること(第一回目の教唆の時期には前後約一月の幅があり、二回目の教唆の時期には、前後二〇日余の幅がある。)は、所論のとおりであるけれども、右程度に日時の幅があったとしても、そのために未だ訴因が特定していないとはいえない。
原審における訴因の変更の許可及び許可された訴因に基く有罪の認定が、被告人の防禦権を侵害し、刑事訴訟法三一二条、日本国憲法三一条、三二条、三六条に違反しているとはいえない。
(綿引 藤野 三好)